Free【chou chou6月号 Pickup】鳥の声が聞こえたら。株式会社とりのこと。

〝社鳥〟の杉浦すずめさん

花が鮮やかに咲き、草木が色濃くなっていくこの季節。命のきらめきに、こちらまで心が弾むようです。耳を澄ますと、鳥たちの鳴き声も聞こえてきます。

 今月の特集は、鳥にまつわる会社のお話。十和田市に「株式会社とり」という、ちょっと気になる名前の会社があります。〝社鳥〟(しゃちょう)は、愛知県出身の杉浦すずめさん。鳥好き、中でもスズメが大好きで、この名義で活動しています。

 同社は、二人だけの小さな会社。一番身近な野生動物である鳥の魅力を伝えるべく、野鳥の彫刻の製造やワークショップなどを行っています。また、十和田市焼山地区の奥入瀬渓流温泉付近でショップ兼カフェ「鳥曇」(とりぐもり)を運営しています。

 会社のことや、野鳥のこと。今までのことや、これからのこと。杉浦さんのお話に触れると、日常の中にある鳥の鳴き声や姿が鮮明になってきます。ぜひ歩を緩めて、野鳥の存在を感じてみてください。

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 【株式会社とりのこと】
 2023年9月、十和田市焼山地区に株式会社とりの実店舗「鳥曇」がオープンしました。〝社鳥〟の杉浦すずめさんに、会社のこと、そして野鳥への想いを教えていただきました。

 【スズメ型バルーンを大学時代に制作】
 奥入瀬渓流や十和田湖の玄関口・十和田市焼山地区に、木を基調とした建物がたたずみます。ここは空き家をリノベーションした、株式会社とりの実店舗。セレクトショップとカフェ、ギャラリーを兼ね備え、野鳥の彫刻に絵付けをするワークショップも行っています。

 愛知県出身の杉浦さんは、物心ついた時から鳥が好きでした。祖父母がふとん職人だったことから、つくることを生業にしたいという意識があり、愛知県立芸術大学へ進学。デザインを学ぶうちに、ものづくりを通して鳥の魅力を伝える方法を考えるようになります。

 「誰でも分かるスズメをもっと気になる存在にしたい。あり得ないくらい巨大なスズメと遊んでもらうのはどうだろう」。そう考えた杉浦さんは、卒業制作で高さ6メートル、全長(くちばしから尾羽の先まで)12メートルにもなるバルーンを完成させました。これをきっかけに、実際に大きなスズメで子どもたちと遊ぶ仕事を請け負うようになり、大学院に進んで株式会社とりを立ち上げたのです。

 【別会社を経て再始動、そして移住】
 「会社を〝媒体〟として使うことで、鳥や自然に興味を持つ人が増えれば」と起業した杉浦さん。大学院卒業後は趣味で自身の会社を続けていければいいと考えていたことから、別会社に勤務していました。

 しばらくして転職のために上京したことで、株式会社とりが再び動き出します。セレクトショップで働いていた現在のパートナーである〝会鳥〟(かいちょう)との出会いから、編集者や料理家をはじめ、自分たちで生業をつくり出している人たちとの交流が始まりました。

 また、同時期に公益財団法人日本野鳥の会に採用され、都内の公園に勤務するように。鳥に長年関わってきた先輩や同僚たちから、たくさんのことを教わりました。こうしてワークショップやバードウオッチングの案内といった現在につながる仕事を徐々に増やしていったのです。

 株式会社とりの活動が軌道に乗り始めた頃、思わぬ事態が起こります。新型コロナウイルスの流行です。仕事をすることが徐々に難しくなり、会鳥の出身地である青森県内に移住することを決めました。この時に、十和田市焼山地区で築50年以上の空き家と出合います。現在の「鳥曇」です。

 【どんどんスズメが好きになる】
 「野鳥は一番気軽に出会える野生動物。鳴き声も姿も私たちのすぐそばに存在している。小さくて弱くて、でも力強い」。杉浦さんはこう話します。

 杉浦さんが特に好きな野鳥がスズメです。ほとんどの人が見たことがあるのに、身一つで生きている。会社勤めで病気を患ってからは特に支えられてきました。杉浦さんは「どんどんスズメが好きになっている。すごく力をもらっていて、何にも代えがたい特別な存在。もしいなくなったら…想像するだけでつらい」と語ります。

 そして、身近だけれども、知っているようで知らないのもスズメです。「みんな名前は分かる。でも、『どんな顔?どんな体の模様?』と聞くと、あれれ?となってしまう人がほとんど。近いようで遠い不思議な存在」と杉浦さん。知れば知るほど奥が深いところもまた、スズメの魅力の一つなのです。

 【バードウオッチングを誰でも楽しめるように】
 東京に暮らしているころ、自然はバードウオッチングのために出向く場所でした。しかし、移住後は身の回りに自然があるため、帰属意識が生まれたと感じています。「素晴らしさを感じているからこそ、目の前の自然や命に対して責任ある行動をしていきたい」と杉浦さんは話します。

 現在、お店の近くにも生息する絶滅危惧種のクマタカを主人公にした絵本を制作中。その存在の尊さを多くの人に知ってもらいたいと考えています。

 また、奥入瀬渓流や十和田湖周辺でバードウオッチングのガイドをするという目標もあります。視覚や聴覚に障害がある方や、車いすの方も含め、誰もが楽しめるプログラムを準備している最中です。

 鳥に関わることができる喜び。そして、一人一人とつながる喜び。株式会社とりは鳥曇を拠点に、やりたいこと、やるべきことを一つずつ形にしていきます。

 【鳥曇 information】
 ショップとカフェ、ギャラリーのあるお店。野鳥の彫刻のほか、シルクの腹巻きやチベット香、陶器など暮らしの雑貨をセレクトして販売している。カフェのおすすめはハーブティーとチーズケーキ。長時間の読書も大歓迎。

 ところ:十和田市法量焼山64-181(駐車場あり)
 定休日:火曜、水曜(ほか不定休)
 営業時間:9:00~16:00
 Instagram:@torigumori_towada
 問い合わせはインスタグラムのDMかメール(info@torigumori.com)で。

 【株式会社とり 今後のイベント】
 6月8、9日 「とわだこマルシェ」にて物販出店、 7月20日 「十和田市現代美術館カフェ&ショップcube」にてワークショップ

 ※本紙生活情報誌シュシュ6月号の特集記事をウェブ用に再編集しました。スズメの写真は株式会社とり提供です。

 
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