Free風光明媚な景観、後世へ 種差海岸の国立公園指定10年

三陸復興国立公園に指定された種差海岸の天然芝生地。変化に富んだ海岸線が特徴で、風光明媚な景観が人々を魅了する=22年7月

2013年5月24日、八戸市の種差海岸が三陸復興国立公園に指定された。市が1933年に初めて国に陳情してから、実に80年来の悲願だった。今年は指定10年の節目。風光明媚(めいび)な海岸線は、今も変わらず人々を魅了してやまない。

東日本大震災からの復興が転機となった。環境省は「グリーン復興プロジェクト」を掲げ、東北地方の太平洋沿岸にある自然公園を一体的に再編。種差海岸・階上岳地域を編入し、新たな国立公園が誕生した。

19年には、蕪島から福島県相馬市の松川浦までをつなぐ「みちのく潮風トレイル」が全線開通し、“歩く観光”の魅力が高まった。

種差海岸の変化に富んだ自然環境は、唯一無二であろう。ウミネコが乱舞する蕪島、荒々しい岩礁、一面の白砂、巨岩・奇岩…。波打ち際まで鮮やかな緑の天然芝生地が広がり、青い大海原との絶妙なコントラストを描く。海浜植物や山野草が四季折々に咲き誇り、豊かな生物多様性から「花の渚(なぎさ)」とも称される。

海岸線の美しさに心を引かれた文人墨客も数知れない。詩人の草野心平は、太平洋に昇る月を「ザボンのやうな満月」と表現。鳥瞰(ちょうかん)図絵師の吉田初三郎はアトリエ兼別荘「潮観荘」を構え、絶景を広く紹介した。

工業港や市街地に近い種差海岸は、人の営みと密接な存在だ。先人が愛し、育て、守り続けてきた歴史の積み重ねが国立公園として認められた。指定10周年を迎え、「国の宝」を後世に引き継ぐ意義をいま一度、再確認する機会となろう。

 
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