天鐘(1月16日)

ほのぼのとした「まんが日本昔ばなし」を見た後は、土曜ワイド劇場「家政婦は見た!」にチャンネルを合わせる。番組が組まれる土曜日の夜は、テレビから離れられなかった▼「昔ばなし」ではゆったりした語り部の市原悦子さんが、ドラマでは家政婦役を“怪演”。画面に引き込まれた。どちらも20年以上続いたのは市原さんの魅力に尽きる▼「家政婦は―」で主人公・秋子が入るのは政治家や実業家、家元らの家。権力と名声のある人の、世間には見せない裏の顔と“都合の悪い事実”をのぞくようになる。不正や裏切りなど世相を映すスキャンダルも題材だった▼「のぞき見」は悪趣味とも言われたが、コミカルな演技とラストの痛快さで人気シリーズに。事実を知ったら口をつぐまず、「何て人たちなの」と啖たん呵かを切る勇気と迫力が秋子の真骨頂だ▼お金と仕事を与えていれば黙っているだろうと思ったら大間違い―。常に聞き耳を立てて遠慮なく言う。市原さんは共演者に「嫌だなあ、こんな女」としみじみ言われ、ちょっと憂ゆう鬱うつになった時もあるが、喜々として演じたという▼唯一無二のキャラクターを作った市原さんが亡くなった。一強主義に流れ、「物言えない時代」になりつつある今の世でこそまたあの役を見たかった。現実世界にはいくらでもネタがある。憤らず、口をとざすようになった社会は危うい。秋子は希少な存在だった。