Free時評(3月26日)

ニュージーランドのモスク(イスラム教礼拝所)で起きた銃撃テロの記憶は当分、人々の脳裏から消えそうにない。犯行をインターネットで生中継する異常さや、50人という多数の犠牲者に加え、白人至上主義が動機の憎悪犯罪(ヘイトクライム)だったからだ。
 民族や肌の色、宗教などの多様性を認め合わなければ現代の共生社会は成り立たない。同種の犯罪が再発しないよう国際的な取り組みが不可欠だ。
 容疑者のオーストラリア人の男は声明文で、イスラム教徒の移民を“侵略者”と呼び「白人の土地が征服できないことを見せつけるため」とテロの理由を説明した。「欧州が非白人移民に乗っ取られる大いなる交代の過程にある」と主張するフランスの右派思想家に傾倒していたと見られ、声明文も「大いなる交代」と題されていた。
 欧州では2015年、中東などから難民が殺到する「難民危機」が発生した。男は欧州を訪問して難民の急増を目の当たりにし、独り善がりのいびつな危機感を深めていったようだ。
 犯行に走った背景には、難民や移民を排斥する風潮が欧米で強まっている現実がある。欧州では、難民の排斥を掲げる右派勢力が伸長し、米国でも移民へのヘイトクライムが増え、白人至上主義者の勢いが増した。その理由の一端はメキシコ移民を「レイプ犯」と呼ぶなど差別主義的な言動を繰り返してきたトランプ大統領にある。
 大統領は今回の事件後、白人至上主義に対し明確な批判を避けているが、男が声明文で大統領を「白人アイデンティティーの象徴」と賛美していただけに、断固とした態度を示すべきだ。
 問題なのは、男のような極右過激派がネットを介して国境を越えてつながり、連携を深めていると見られることだ。この点では過激派組織「イスラム国」(IS)と全く同じだ。ISが世界中から若者を集めたのはネットを通じた宣伝であり、ネットで広がったテロ事件が新たなテロを触発するという連鎖を引き起こした。各国はISの宣伝に歯止めをかけるためネット対策を強化した。
 白人至上主義者らについても、これ以上台頭しないようネットの連携を絶たなければならない。会員制交流サイト(SNS)運営企業の支援は当然だが、極右の情報共有など国際社会が協力し合うことが必要だ。
 6月に大阪で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会合はそうした場として最適だ。安倍晋三首相の主導力に期待したい。