FreeJリーグウォッチャー・平畠さんインタビュー【デジタル限定全文掲載】

インタビューに応じる平畠啓史さん

2月下旬に開幕したサッカーJ3。ヴァンラーレ八戸は開幕2連敗を喫したが、J2昇格を果たすならば、下を向いている暇はない。八戸に必要なものは何か―。芸能界随一の「サッカー通」として知られ、映像配信サービス「DAZN」でJ3試合実況も担当する、Jリーグウォッチャー・平畠啓史さん(55)に今季の戦いぶりの印象を聞いた。


【攻撃にポジティブな要素】
 ―2節まで終了した。

 連敗にもネガティブな印象はない。大宮アルディージャとの開幕戦も先制されたが、そこで崩れるのではなく、リードされている中で、徐々に自分たちのペースに持っていった。
 戦力的に大宮の方が上だったが、オリオラ・サンデー選手のシュートが決まった後に奪われた、3失点目が勝負所だった。
 2節のSC相模原戦も先制されたが、前半の残り10分からはほとんど、自分たちでボールを動かしていた。
 特に今季は後半の戦いにポジティブな印象を持っている。結果的に崩しきれなかったが攻撃の形は見えてきている。


【微妙なずれも上積みの兆候】
 ―課題は。
 勝っても負けても課題はある。深刻には捉えていない。
 3バックのうち2人は新戦力。昨季は戦っていく中で距離感をつかんでいった。
 今季は新たな3人(蓑田広大、柳下大樹、藤嵜智貴)を選んだ。練習でやってきたことが、いざ試合になった時に微妙なずれが出たのでは。無理矢理、課題を探している部分はあるけれど。

 ―今後、改善するか。
 全て昨季のままだと上積みはない。ベタな言い方だが、もっとパワーを出すための反動を付けている時。膝を曲げてジャンプする手前。そのための新しい選手だし、今は上に行くための段階だ。


【サンデーの「個」】
 ―補強をどう見る。
 相田勇樹選手が移籍し、姫野宥弥選手が引退したが、骨格はさほど変わっていないという印象。昨年のベースがあるのは有利な点。サンデー選手がチームに残ったの大きい。


 ―J3を戦う上で強力なFWが必要?
 石﨑信弘監督の下でやっているサッカーは全員がハードワークし、チームで攻撃も守備も頑張るスタイルで、ある程度の勝ち点は見込める。
 ただ、2連勝、3連勝、負けを引き分けに、引き分けを勝ちにすると考えた時、組織だけでなく個の力が必要になる。
 相手が組織的に守ってきた時、組織対組織で戦っても崩せなくなる。そこを突破するのは個の力。他の選手が持っていない個の力が重要になる。


【永田の輝く場所】
 ―新戦力で注目選手は。
 永田一真選手は昨年、テゲバジャーロ宮崎で良い働きをしていた。4―4―2の中盤左で、個人でがんがん突破して、縦にも中にも行ける。
 今はインサイドハーフ。永田選手の一番のいい場所は分からないが、彼が働ける場所が見つかったら、チームにも永田選手にも幸せなことになると思う。
 すごく才能のある選手。もしかしたら彼のやりたい場所があるかもしれないが、八戸における一番輝ける場所を見つけてほしい。
 練習で「俺をここで使ったら、こういうことできるぞ」と、監督に並びを替えてみようと思わせるほど、アピールしてもいい。
 試合の流れの中で、FWに雪江悠人選手と佐々木快選手、トップ下に妹尾直哉選手を置く形になっていたけど、妹尾選手のところに永田選手を置いてみるというアイデアも面白い。


【柳下の攻撃センス】
 ―以前、柳下大樹選手の攻撃参加を取り上げていた。
 元々は前線の選手だと思う。だから攻撃のセンスがあるし、持っている内面も攻撃的な人だと思う。
 そういう部分はもっと出していけばいい。後ろのスペースが生まれると指摘をする人もいると思うが、そこは柳下選手の良さを出すために誰かが補えばいい。
 相模原戦は持ち上がるだけでなく、ボールが動いている間に前のスペースに入る動きも見せた。攻撃の厚みが生まれ、相手は守りづらい。
 柳下選手が前に行ってゴールにつながると、最初は「個」でやっている印象になるけれど、少しずつチームとして彼をどう生かすかという「戦術」になる。


【トランプのように一塊に】
 バラバラにあるトランプを(机に)とんとんとやっていくうちに、段々と一塊になっていく。リーグ戦の最初の段階で面白い部分は、集めてきれいな束になっていくの見ることだ。
 柳下選手がいて、左には稲積大介選手がいて。まだカードが1枚ずつあるように見えるけど、段々やっていくうちに一個の塊になっていく。
 それが早くできれば、チームとしてシーズンに入っていける。もちろんそのためにキャンプもしているけど、本当のゲームはやってみないと分からない。


【昨季の7位にリアリティーを】
 ―今季のJ3の展望は。
 今季はプレーオフの実施が大きい。八戸は昨年7位で、6位の鳥取と勝ち点が同じ。昨季なら、もう少しでプレーオフに行けたということだ。
 プレーオフがあれば、昨季終盤の戦い方は変わっていた。得失点で上回らないといけなくなっていたからだ。
 八戸は昨季、3連勝後に引き分けで終わったが、もしかしたら勝ちにいって負けていた可能性も、4連勝する可能性もあった。
 昨季の7位という成績をいかにリアリティーがあるものにするか。今季はそのためのシーズンだ。
 八戸だけではなく、終盤に8、9位のチームも「もう一個勝ったらプレーオフに行ける」という戦い方に変わるだろう。
 そこで力を出せるようなチーム作り、最後の際の部分で、なんとか1点取る、引き分けにする。そういう戦い、勝負が見たい。


【Jリーグにいる意味】
 ―J3もYBCルヴァンカップに参戦する。
 僕は前からJリーグ全チームのトーナメントにすべきだと思っていた。(Jリーグの)野々村芳和チェアマンにも言ったことがあるが、そのことをこの前、チェアマンに言ったら「え、そうだっけ?」って言われた(笑)
 要はJ3のチームにこの大会がないと、JFL(日本フットボールリーグ)とJ3の違いは何かという話になる。
 J3にはJ2へ上がる可能性があると言うかもしれないけど、(力的に)上がる可能性がないクラブにとっては「J3とJFLの違いって何なの?」って。
 ルヴァンカップのような大会があるからこそ、J3にいる意味が出てくる。前からそうしてほしかったので、すごくうれしい。
 八戸の初戦はツエーゲン金沢。勝ったらホームでJ1の鹿島アントラーズと当たる。J1という存在は知っていても、どんなチームなのかが間近で分かる。
 鹿島のスタジアムではなく、プライフーズスタジアムに来る。サポーターの振る舞い、選手の体つきもきっと違うだろう。
 「この選手ってリーグ戦であまり見たことないけど、こんなにうまいんだ」とか、そういった一つ一つがJリーグにいることの意味を感じることにつながる。
 もっと言うと、選手も「ここで勝てば鹿島から誘いが来るんじゃないか」と考えるかもしれない。


【監督の器の大きさ】
 ―石﨑監督の印象は。
 明るく、エネルギッシュで、人を元気づけるところが大好きだ。フランクでとても好きな監督の一人。
 他のクラブでフィットしていなかった選手をうまく使うすべ、器の大きさ。「そんなん気にせんでええからやってこい。あかんかったら俺が責任取る」ぐらいの感じがある。
 監督歴が長く、若い時と今は違うだろうけど、(元日本代表の)中村憲剛さんと話した時、憲剛さんが「川崎フロンターレ1年目の時に石﨑さん監督で良かった」と言っていた。
 いろいろなことを教わり、ハードな練習で鍛えられたりしたんだろう。選手をそういう思いにさせる監督。そこがすごいところだ。


【Jリーグの魅力】
 ―Jリーグの楽しみ方は。
 昨年、YS横浜―八戸戦を実況して、会場に八戸のブースがあった。僕も見に行ったら、関東のYS横浜のファンがすごく楽しみにしていた。
 八戸のショップは「おいしいものがあるから楽しみにしてた」という人が結構いる。
 リンゴジュースやニンニクのたれ(「俺たちのスタミナヴァンたれ」)、ポロショコラ、その全てを買いに来ている。
 銀座にあるアンテナショップに行けば売っているのかもしれないけど、サッカーに行って八戸のおいしいものが買えるって、こんなに最高なことはない。
 日本は長い。僕は関東に住んでいる。たとえば、普通に広島のニュースを見ても、何かリアリティーがない。
 だけど、Jリーグに携わっていて、広島のスタジアムに行ったり、試合を見ていたりすると、すごくリアリティーが出てくる。
 グルメ番組で八戸のせんべい汁がおいしいと話していても「そんなんやってんな」ぐらいにしか見ていなかったけど、今は自分が八戸に行ってせんべい汁を食べているから、あのせんべいはお菓子の煎餅と違うとか考えられて、リアリティーがある。
 そこがJリーグの面白いところ。海外のサッカー見ても、たとえばバルセロナの気候や、おいしいものは、ほとんどの人が行ったことがないから頭に浮かんでこない。
 「バルサが勝った。サッカーが面白かったな」で終わり。でも、八戸の試合を見て、「駅からタクシーに乗って25分ぐらいだったな。スタジアム回りにある豚のあれ(パイカ丼)もおいしかったな」、「プラスタは結構冬は風が強い」などと感じられる。


【日本映画のような奥深さ】
 映像で試合を見ていると、ユニホームの色、スタジアムの匂いも思い出す。その土地のリアリティーを感じられるのがJリーグの面白いところだ。
 たとえば、八戸の佐々木快選手が青森山田高出身だと知れば、(現・町田ゼルビアの)黒田剛監督の下で鍛えられて、雪の中で練習していた―というところまで想像できる。「今、ライン際で頑張ってたけど、高校時代に鍛えられたものだな」と。ワンプレーでいろんなことが想像できる。
 Jリーグは、サッカーを見ながらもう少し奥を想像できるといころがいい。
 海外サッカーはハリウッド映画っぽくて、見た目のエンターテインメント性が強い。文句なしに面白い。
 一方でJリーグは、日本の映画を見た時のように「夕方の海沿いで、風がこれぐらいだけど、意外と寒いんだろうな」と想像できる深みがある。
 (楽しみ方は)見る側にも委ねられている。J3は、J1に比べたらもしかしたらエンターテインメント性は落ちるかもしれない。でも、逆にJ3を楽しんでいる人は、委ねられていることに対し、自分なりの楽しみ方を持っている。
 それはアウェーに行った時、おいしいものを食べるとか、温泉に行くとか。どれだけ応援しても(サポーターは)シュートを決められないし、失点も防げない。応援して、かつ自分がどうやって好きなチームを通じて一日を楽しむかが大事だ。


【「より面白く」とは考えない】
 ―J3の試合実況も務めている。
 比べたことがないので分からないが、資料作りで言えば、他の人の方がやっているだろう。僕は実況のためではなく、普段から試合を見ている。
 中継のために整理して資料は作る。だけど、それよりも「実感」。前の試合で良いプレーをしていた―といったデータではない実感を伝える方が大事だと思っている。
 Jリーグは(映像配信サービスの)ダゾーンで放映されているが、今はスマートフォンで見る人もいる。
 小さい画面では、選手が誰か分からないこともあるだろう。だから、実況のベースは誰がボールを蹴って、誰がコントロールしたかということ。テレビなら違うかもしれないが。
 基本的にサッカーの邪魔をしたくない。実況する時は最初に名乗ることになっているが、僕は言わない。一度も言ったことがない。
 テレビに出してもらったり、こうして取材を受けたりするので、「平畠がしゃべっているのか」という、良い意味でも悪い意味でもバイアスがかかる。
 自分が目立ちたいから実況をしているわけではない。主役はサッカー。そこよりも目立とうという気は一切ない。
 僕はサッカー自体が面白いと思っている。より面白くなんて、そんなおこがましいことは考えていない。
 サッカーの面白さを損なわないようにしたい。「俺がサッカーを盛り上げる」とか「俺が底上げする」という気はさらさらない。
 「こういう見方をしても面白いのでは」と提案できる形になればいいとは思うけど。もしストレスなく試合を見てもらえているなら、それが一番いい。

 
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