Free【藤井フミヤ展】㊦女性像 「独自の視点、世界観描き続け」

「鍵を持つ コーナーの女」(2019年)©FFM2024

ミュージシャンと画家。二つの顔を併せ持つ藤井フミヤさんだが、各作品で表現するテーマは異なる。愛の概念を主題にする音楽に対して、アートは「“なんでもあり”の自由な世界」だという。

 表現に制約がない中で藤井さんが常に頭を悩ませているのが、いかにして作品に“藤井フミヤらしさ”を打ち出すか―ということだ。画歴は30年を超えるが、確たるオリジナリティーはまだ見つかっていないのだという。しかし、本展を一通り鑑賞すると、多くの作品に共通するモチーフこそが、藤井さん独自の世界観を構成しているように思える。

 中でも圧倒的に多いのが、女性を描いた作品だ。身体の柔らかな曲線美に引かれるといい、キャリア初期から手法を問わずモチーフにし続けている。きっかけとなったのはキリスト教の宗教画。女性が神様のように大切に描かれていることに心引かれ、自ら描き始めた。作中における女性は女神のような存在なのだという。

 だからこそ、藤井さんは「女性を美しく表現したい」という強い思いを持っている。制作では構図や描線にこだわり、とにかく時間をかけてドローイングを重ねる。描いては消してを繰り返して、作中の女性と丁寧に向き合うのだ。

 女性を捉える視点も独特な感性で、そのことを象徴する作品に「コーナーの女」シリーズがある。部屋の隅で体をかがめる女性をモチーフにした作品群で、「頭からつま先までを真っすぐに捉えるのではなく、どこかぎゅっと丸まっているような姿を描きたい」という藤井さんの美へのこだわりがよく表れている。

「AI Girl in Space」(2018年)©FFM2024

「AI Girl in Space」などに見られる、女性の体のパーツを分解して描き出す表現も特徴的だ。どことなく感じられる機械的な雰囲気は、幼少の頃からずっと好きだったというロボットアニメに影響を受けているのだという。

 オリジナリティーとは「個人的なチョイスの塊」だという藤井さん。クリムト、ガンダム、赤塚不二夫など、自らが好きなものの要素を複合的に組み合わせて創作に落とし込むことが、自分らしい表現につながると考えている。

 だからこそ、女性像にSF的なエッセンスを加えた表現は現時点での“藤井フミヤらしさ”だと言えるのではないだろうか。藤井さん自身も、「あえて今、作品に自分らしさを見いだすとするならば」という質問に対して、熟考の末、こう答えている。「やっぱり女性なんだろうな。しかもやっぱりバラバラにしちゃう」

 しかし一方で、多彩な作品の数々を目にすると、藤井さんの表現世界はまだ見ぬ可能性を秘めているように思えて、そのオリジナリティーを断じるのは気が早いようにも感じられる。

 「これからも、音楽にしろアートにしろ、常に“何か”を創作していく。それが自分らしい生き方である。一生アーティストでありたい」。こう語る藤井さんの表現は、今後どう変わっていくのだろうか。自身が納得する“藤井フミヤらしさ”は見つかるのだろうか。本展はきっと一つの通過点に過ぎない。「画家・藤井フミヤ」の現在地を、目に焼き付けたい。

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 「藤井フミヤ展 Fumiyart2024」(デーリー東北新聞社主催)は八戸市美術館で開催中。25日まで。

 
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