Free早朝の社交場、惜しまれ閉店 「せんべい喫茶」33年の歴史に幕/八戸

せんべい喫茶の思い出を語る上舘一雄さん
せんべい喫茶の思い出を語る上舘一雄さん

八戸市鍛冶町地区の上舘せんべい店が営む「せんべい喫茶」が20日、多くの市民に惜しまれながら33年の歴史に幕を下ろした。毎朝、常連客に焼きたての「てんぽせんべい」を提供してきた上舘一雄さん(76)は、「人生経験豊富ないろんな人が来てくれて、店は『生きた事典』のようだった。人と人がつながり、新しい話題が生まれていくのが楽しかった」と思い出を振り返る。

 せんべい喫茶は1991年、上舘せんべい店のすぐそばで開店。鍛冶町で60年以上にわたって親しまれてきた片町朝市の一角で、「小さかった子どもを育てるために始めた」という。

 上舘さんが準備を始めるのは午前4時。程なく客が訪れ、店の作業が本格化する同8時ごろまで営業した。毎年1月を休みにした以外は、妻京子さん(74)と欠かさず店頭に立ち続けた。

 30秒ほど軽く火を入れて焼き上がるてんぽせんべいは、一般的な南部せんべいとは異なる、もちもちとした食感が特徴で価格はずっと1枚50円。定番の味を求めて集う常連客は、満席になると店先にも椅子を並べて語り合い、憩いの時間を過ごした。

 「本当に幸せな空間だった」と語るのは、約20年来の常連客である門口光子さん(77)=同市=。さまざまな立場の人から話を聞くのが楽しみで、「人生の学びになった」と話す。近年は若者や旅行者の来店も多かったといい、「新しい人も快く迎えるとても温かい雰囲気だった。一雄さんの人柄がそうさせていたのかな」と振り返る。

 小山善治さん(79)=同=は、長者山新羅神社でラジオ体操に参加した帰りに寄るのが日々の習慣だった。「年を取ると何かと沈みがちになってしまうが、良心的な価格で毎日通えて、ストレス解消になっていた。シャッターが降りているのを見ると寂しさが募る」と閉店を惜しむ。

 上舘さんは、閉店は自身の年齢などによる自然な成り行きであり、特別な気持ちは抱いていないという。「お客さんというよりは、仲間だと思ってやってきたから。店を閉めても、いつだってまた会えるからね」と目を細めた。

 
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