Free【北奥羽各駅めぐり】⑬北高岩駅 鉄路と共に栄えた集落

山あいの集落は鉄路と共に栄えた。八戸市上野高岩の青い森鉄道北高岩駅は1923(大正12)年、旧館村の南端の高岩地区に開業した。1891(明治24)年の東北線全線開通から30年余。敷設当初は沿線各地にあった鉄道反対の声は既に終息。むしろ、開業は村民の熱意の結実と言えた。

 駅近くの「苫米地せんべい店」は昭和初期創業という、八戸で最も古い南部せんべいの老舗。代表の苫米地敏美さん(84)は父重吉さんの跡を継ぎ、伝統の味を守りながら地域の栄枯盛衰を見続けてきた。

 「(高岩地区は)広い農地があったわけじゃない。駅ができ、農家の次男、三男が移り住んできた。勤め人の方が多かったよ。最盛期は100戸くらいあったかな」と懐かしむ。

公園の桜が満開となる中、北高岩駅に到着する青い森鉄道の列車

酒店、雑貨店、菓子店。やがて商店街が形成され、町はにぎわった。八戸方面から仕事帰りに尻内駅(現八戸駅)でカップ酒を引っかけ、千鳥足で家路に就くサラリーマン。花見の時期は酔っぱらいのけんかも度々あった。大相撲の地方巡業に旅芸人一座の公演。娯楽も事欠かなかった。

 「建て替え前の高岩生活館(集会場)は南部バスの営業所を譲り受けたもの」「八幡の夜店には二戸方面から北高岩駅で降りて歩いて行く人もいた」―。苫米地さんの話は尽きない。

 北高岩駅の1日の乗降客は「昭和30年代には約2千人」との資料もあるが、青い森鉄道によると、2018年度は43人。駅舎は開業当時の面影を残す木造。ホームは2面3線で1番線が下り、3番線は上り、2番線は貨物列車の待避線だ。


貨物引き込み線跡に公園

開業当時の雰囲気を今に伝える北高岩駅の駅舎

1962年まで貨物輸送も行われ、特に「南部りんご」の取り扱いで知られた。長いホームはその名残。かつて貨物引き込み線があった駅舎北側の跡地は現在、街区公園「高岩コミュニティーパーク」として住民に親しまれている。

 4月下旬の夕方。公園を散策中の近くの男性(83)が「小学校、中学校と八幡まで約1時間もかけて歩いたもんだ。高校に進んで以降、八戸への通学、通勤に列車を使うようになったよ」と往時を振り返った。

 「子どもの頃は馬淵川で釣りをするのが楽しみだった。近くに美しい松の木が生えていたんだ」と続けた男性。その視線の先で、東北新幹線の高架線を緑色の車両が、夕日を反射させながら行き過ぎた。


【高岩コミュニティーパーク】
 主に近隣住民の利用を見込む都市公園法の「街区公園」として1996年4月1日に開設。面積約0.2ヘクタール。ソメイヨシノと八重桜の計13本が敷地を囲むように植えられている。木は青い森鉄道の線路に近く、カメラ初心者でも手軽に車両と桜を組み合わせた写真を撮ることが可能だ。好天時には名久井岳を望めるほか、高架線を疾走する東北新幹線を見ることもできる。

【北奥羽各駅めぐり 停車駅】(全23回)

 
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