Free(20)労働生産性の向上 武藤一郎・日本銀行青森支店長

県外の消費者からみた青森の県産品に対するイメージ(上)県内中小企業のDX推進の取り組み状況(下)
県外の消費者からみた青森の県産品に対するイメージ(上)県内中小企業のDX推進の取り組み状況(下)

青森県では、急速な人口減少などを映じて人手不足が深刻化している。このため、企業が事業戦略を考える上で、労働生産性の向上が重要な課題である。日本銀行青森支店は3月13日に特別調査を公表し、県内企業の労働生産性向上に向けた施策と課題について整理した。本稿ではその概要を紹介したい。

 労働生産性を就業者一人当たりの付加価値額と定義すると、2019年度時点で、青森県の水準は約700万円と、全国平均の870万円を下回っており、労働生産性を高める余地はあるとみられる。少ない人手で、いかに付加価値額を維持・増大するかが県全体の課題である。

 県内企業は近年、労働生産性の向上に向けたさまざまな策を行っている。それらは(1)労働投入量の節約に向けた施策(2)付加価値額の増大に向けた施策―に大別できる。

 (1)で代表的なのは「設備投資による自動化・機械化」である。当県に特徴的な事例は、農水産業や食料品分野で多い。例えばリンゴの選別に人工知能(AI)を導入したり、ドローンを活用してリンゴの受粉を行ったりする企業がある。畜産では、多様な機器を通信でつなぐモノのインターネット(IoT)を活用して牛乳の乳量・乳質を管理している。食料品でも、日本酒の生産工程の多くを機械化している。

 「業務プロセスの見直し」を行う動きもある。宿泊では、各職員が複数の職種を担えるようマルチタスク化を図っている。鉄鋼では、設備稼働状況を一覧化できる工程監視ソフトを導入している。

 (2)で典型的なのは「魅力ある高単価商品の開発」である。食料品では、日本酒の製造量を限定して希少性・ブランド力を高める取り組みや、SNS映えするデザインのサバ缶を開発し、商品イメージを高める手法がみられる。

 「オンライン技術を活用した販路拡大」も行われている。小売りでは、コロナ禍の来客減少を経てEC販売に注力する企業が増えている。高齢者が利用しやすいアプリを活用した独自の配達サービスを行う企業もある。

 これまでに成果が表れている分野もある。農業では、さまざまな施策の結果、販売農家一戸当たりの生産農業所得が05年の233万円から20年の432万円へと増加した。また、県外消費者からみた県産品のブランド力やデザイン性のイメージも向上している(図1)。

 課題もある。一つは、自動化・機械化を行う上での制約である。技術的なハードルに加え、設備投資の費用が高く、資金面で困難に直面する企業も多い。

 もう一つは、地域全体としてのデジタル化(DX)の遅れである。県の調査によれば、当県企業の多くが、DXの必要性を感じながらも実施できていない(図2)。IT・DX人材の不足に加え、消費者も含めた地域全体のDXの遅れが成果を生みにくくしている面もある。

 これらの課題に対処するには、企業の自助努力のみでなく、教育・研究機関、金融機関、経済団体、自治体の果たす役割も大きいと言える。県全体として、労働生産性の向上に取り組む必要があるだろう。

 
お気に入り登録