Free【猿楽の旅音日記】㉑「組曲 金田一温泉物語」冬の巻~湯由~

歴史ある温泉宿の浴場。どこか懐かしい風情を感じる(楽曲のMVより)
歴史ある温泉宿の浴場。どこか懐かしい風情を感じる(楽曲のMVより)

二戸市地域おこし協力隊の猿楽さんは、市内の風景や文化を音楽で表現する「旅音プロジェクト」を進めている。音楽家の感性で捉えた二戸の印象を、曲のイメージと共に紹介する。   

 ◇ 金田一温泉郷が秋から冬に変わる時期の早朝は、朝もやの風景が美しい。そして、冬になればこの地域も白一色に染まる。

 雪道を歩きながら、昔ながらの温泉宿を巡るのは風情がある。僕の好きな宿の一つが「おぼない旅館」だ。浴場の壁に描かれた絵やデザイン、歴史を感じる床面のタイルなどが、懐かしさを感じさせてくれる。

 特に床面のタイルの色合いは、とても気に入っている。長い間に塗り重ねられてきたのだろう、なんとも言えない味がある。

 今回は旅館の許可を得て、入浴客のいない時間に浴場に入り、湯船の周りで鍵盤ハーモニカを吹きながら曲を作った。湯煙の向こうにはすりガラス。その奥には、雪景色がぼんやりと見える。僕の過去の記憶にある風景も浮かんできそうな、幻想的な空間だ。

 こういう場所に行くと、小さい頃に家族旅行で各地の温泉街を訪れたことを思い出す。周りの客は大人も子どももそれぞれのペースで、行楽気分をゆったり楽しんでいた。昭和の懐かしさに帰るような雰囲気も、おぼない旅館にはある。

 昔の記憶に浸りながら、ふと思った。静かな温泉郷にいると、まるで時が止まったような錯覚を覚えるが、ここは現実世界なのか。夢の中ではないのか…。

 湯船の周りでポカポカした幸せを感じていると、楽しげな曲ができた。曲名の「湯由(ゆゆ)」は、人の集まる温泉(湯)が、金田一地区のよりどころ(由)であるというイメージで付けた。

 曲を気に入った子どもが温泉郷で口ずさんだり、僕の演奏会に聴きにきてくれたりしたらうれしい。湯煙に包まれた、たくさんの入浴客の笑顔を思い浮かべながら、聴いてほしい曲だ。 

 ※タイトル曲などのミュージックビデオ(MV)は、猿楽さんのサイト「にのへの旅音」で順次公開する。

 
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