Free⑦・完 「違いを知る」 現地の好み踏まえ取引を

コロナ禍前とは様相が変わり、輸出の物流コストは高騰した。都市圏に比べ、国内物流コストが反映されて高くなりがちな地方では、労働力不足も顕著だ。得意とする商品群でも売り負けてしまう傾向が現れており、中長期的に見ても、輸出額に従来同様の伸びを期待するのは難しい状況にある。

 海外販売で利益を出せるよう、綿々と手間がかかる輸出業務を行っている県内輸出企業には、いつも頭が下がる。既述の通り、あえて大変な輸出に取り組むのは、長く続く国内販売価格低迷のリスクを分散し、より高い価格で海外販売を可能にしたり、将来に向けた布石にしたりするためだ。

 1次産品においては、特に地元青森県内にいながらにして、世界の販売戦略を考える企業が比率として多い。長い物流と販売の期間に耐え得るよう付加価値の高い商品群に品を変えて、包装や表示も輸出先に応じて工夫していくことが望まれる。

 地域により、味の好みに違いがあり、例えばリンゴの品種では酸味がなくて甘味重視の「王林」「トキ」は香港ではウケる。一方、東南アジアのベトナムなどでは酸味があっても、受け入れられる品種もある。

 主力の「フジ」は「つがる」「王林」「ジョナゴールド」の5倍強の生産量を誇る。この「フジ」「サンふじ」といった主力品種が受け入れられる市場であるか、他国産との競合で選んでもらえる価格にできるかが、リンゴ輸出成功のポイントとなる。新たに解禁されたインドへのリンゴ生果の輸出も、その観点で見る必要がある。

 このような市場別の嗜好しこうや広報手段の違いは知っておくべきだろう。消費行動につながるメディアの活用方法で見ると、同じ東南アジアでもベトナムやインドネシアはテレビの比率が高いのに対し、シンガポール・マレーシアはオンライン以外の情報源が多く使われている。

 海外へ行って、また住んでみて発見できる違いも多い。日本酒は、中華圏では大吟醸ばかり求められるが、商売する上では遠隔地ほど常温で送れる、火入れされた純米系が価格面で現実的だ。普段、ワインを飲む欧米市場などでは超辛口ばかりが好まれたり、熱かんで飲めるとの発想がなかったり…。

 清酒のみならず、日本産リキュールの評価は高まっていて潜在力は高いため、供給能力維持の課題はあるだろうが、今後も輸出において試してみる価値は大いにあるだろう。冷えたビールは身体に悪いとアジアで生ぬるいのになれてしまうと、日本が特異なのかと思えてくる。生産側が意図しない発見は、枚挙にいとまがない。

 この連載では輸出に関する諸活動の一端を紹介してきた。今回、触れられなかった貿易投資関連情報は、ジェトロのサイトをご参照願いたい。知財の活用、貿易実務インコタームズ、関税の違いのほか、米国の食品安全強化法といった食品衛生の規制、イスラム圏ハラル、経済連携(EPA)や高度外国人材とともに働く上での課題解決方法など、知っておくと海外取引に役立つ事項がある。

 ジェトロ青森では県や市といった自治体、中小企業団体中央会、商工会議所などとともに、海外販路開拓の支援を行っている。私は5年近く、青森県産品の販路拡大をお手伝いしてきた。10月いっぱいで東京の本部へ帰任するが、気概を持って海外販路開拓に挑戦する県内企業が増えてくれることを願っている。

 
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