Free(28)苦境の製造業 佐藤雅裕・青森財務事務所長

2023年青森県内企業の景況判断BSI(原数値)
2023年青森県内企業の景況判断BSI(原数値)

新型コロナウイルス感染症による行動制限が緩和され、コロナ禍以前の規模で春祭りやイベントが開催される中、5月8日から感染症法上の位置付けが5類に移行したこともあり、景気回復を期待する声が高まっている。

 では、実際のところ県内企業は景気の現状や先行きをどのように考えているのか、青森財務事務所が実施している法人企業景気予測調査の「企業の景況判断」からみてみたい。

 企業の景況判断は、前期と比較した自社の景況感についてお伺いし、「上昇」と回答した企業の構成比から、「下降」と回答した企業の構成比を差し引いたものを「企業の景況判断BSI」という指数で公表している。BSIがプラスとなれば前期より景況が上昇した企業が多い状態、マイナスとなれば景況が下降した企業が多い状態ということになる。

 直近の結果である2023年4~6月期のBSIは、全産業でマイナス8・6と前期(1~3月期)のマイナス27・5から大幅に改善している。要因としては非製造業において、5類移行に伴う人流回復により、小売業や宿泊・飲食サービス業などの個人消費が大幅に伸びていることが挙げられる。

 しかし、指数そのものは依然マイナスの値であり、製造業(マイナス30・4)を中心に景況感が下降したと回答した企業の割合が多い結果となった。

 また、前回調査時に4~6月期の見通しを聞いたBSIは全産業で17・6とプラスの値に転じる見通しであったが、実際にはその水準まで達しておらず、景気回復が企業の予測より遅れていることが読み取れる。

 背景には、製造業が長引く原油・原材料価格の高騰、半導体の供給不足、中国経済の影響などを強く受けており、引き続き厳しい状況に置かれていることが挙げられる。

 そのような状況は、製造業の23年度経常利益の見込みにも表れており、前回調査では前年度比13・4%の増益見込みであったものの、今回調査では6・8%の減益見込みに転じている。実際に製造業者からのヒアリングでも、景況感が下降している要因として「原料の確保が難しくなっている」「生産コストが増加しており、取引先からの受注も減少している」などの声が多数聞かれている。

 そのような中、県内企業は今後の景気回復についてどのように見通しているのか。調査では7~9月期と10~12月期の見通しについてもお伺いしているが、BSIは、製造業を含めマイナスからプラスに転じる見通しとなっており、今後景況感が上昇するとみている企業が多いようだ。

 ヒアリングでは、製造業で部品の供給不足の解消や生産量の持ち直しを期待する声が聞かれているほか、非製造業では、引き続き人流回復に伴う利用者の増加や、インバウンド需要による外食や宿泊向けの販売増加を期待する声などが聞かれている。

 5類移行に伴う人流回復により、小売業や宿泊・飲食サービス業などの個人消費は勢いを持って回復基調にあるが、製造業においてはその恩恵よりも取り巻く外的要因により依然厳しい状況に置かれている。県内の本格的な景気回復に向けて、製造業の業況回復が望まれる。

 
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