Free(25)賃上げ考 松田英嗣・あおもり創生パートナーズ取締役

賃上げに関する企業アンケート(上)、賃上げ実施の理由トップ3と賃上げしない理由トップ3
賃上げに関する企業アンケート(上)、賃上げ実施の理由トップ3と賃上げしない理由トップ3

新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが、インフルエンザと同等の5類へと移行した。移行を前に、行動制限が緩和された大型連休を久しぶりに旅先で過ごした方も多いようで、旅の土産話を聞く回数も増えてきた。

 青森市内でも、クルーズ船の寄港や外国人旅行者の姿、県外ナンバーの車を目にする機会が増えるなど、「人出」の回復が肌感覚として実感される。また、県内の夏祭りシーズンを前に、各界では経済活動の本格回復に大きな期待を寄せている。

 さて、人出の回復は喜ばしい変化だが、この3年間、コロナに覆い隠されていた「人手不足」も、ここにきて一気に顕在化しており、賃上げを促進させる圧力となっている。

 連合の調査によると、わが国の今春の賃上げ率(定昇込み、5月8日現在)は3・67%と、1993年以来30年ぶりの高水準となっている。この賃上げが消費拡大へ、さらに企業業績の拡大へとつながる経済の好循環の起点となることが期待される。

 弊社でも4月上旬、県内企業に今春の賃上げ状況についてアンケート調査を実施した。それによると、「賃上げをする」企業は全体の70・4%に上り、コロナ前の水準を上回る状況にある。

 一方、「賃上げしない」企業は全体の12・6%にとどまり、コロナ前を下回っている。加えて「賃上げをする」企業のうち「3%以上の賃上げ」を実施する企業は、コロナ前の水準を大きく上回る42・9%に上るなど、県内にも賃上げの流れが広がっており、その上げ幅にも期待できそうだ。

 しかし、賃上げが経済の好循環に向けた起点となるためには、広がりと幅のみではなく、その持続性も求められている。これから当面の間、給与は上がり続けそうだとの観測があってこそ消費拡大が力強いものとなり、結果として企業業績の拡大へとつながる好循環が生まれるからだ。

 その持続性のカギを握るのが「賃上げを実施しない理由」の上位項目から推察できる。上位に挙がった項目から見えるのは「業績拡大なくして賃上げは難しい」との企業経営者の切実な思いだ。

 「業績拡大なくして賃金上げは難しい」との論は正しい。しかし、今後数十年にわたり日本全国で「人手不足」圧力が続くなかで、この「業績拡大」と「賃上げ」の順序は変わってゆくと思われる。

 恒常化する「人手不足」は、必要な労働需要量に対して労働供給量が常に不足する社会を形成することになり、その結果、労働市場は必要な労働力を確保するためには先行して賃金水準を引き上げることを求めるからだ。

 つまり、「賃上げなくして業績拡大は難しい」社会に転換してゆく未来を示唆している。企業経営には困難なかじ取りが求められるが、賃上げ先行型の社会では絶え間ない労働生産性の向上が必要になる。

 「人手不足」を招いている人口減少や高齢化は日本全体を覆う現象であり、他地域からの移転には期待できない上、近い将来、状況が改善することもない。今後の青森県経済は、人口構成の変化に歩調を合わせながら大きな局面変化を経験することになる。

 30年ぶりとなる高水準の賃上げが実現している現在の状況は、「賃上げなくして業績拡大は難しい」社会への局面変化が始まったと思えてならない。

 
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