Free(15)青森の雪と経済 武藤一郎・日本銀行青森支店長

青森市の降雪量・最深積雪量
青森市の降雪量・最深積雪量

当方の大先輩に当たり、第9代の日本銀行青森支店長を務めた吉田満氏は、1967年に刊行された著書『青森讃歌』の冒頭で「津軽の四季の頂点は冬である。真冬である」という有名なくだりを記している。津軽一面を覆う純白の雪景色の美しさと、厳しい冬場に培われる当地の人々の我慢強い気質などを念頭に置いた吉田氏流の表現であり、半世紀以上たった今でも、当地の特性を印象深く捉えた叙述と感じる。

 もっとも、こうした俯瞰(ふかん)的な視点を離れて、当地で日常生活を営む生活者の立場に立つと、冬場の雪の存在を疎ましく思う人々が圧倒的に多いように窺(うかが)われる。特に、当支店のある青森市では、昨冬に近年まれに見る豪雪を経験しただけに、「今冬の雪は少なく済んでほしい」との願いを多数聞いてきた。

 そこで、昨年12月1日から今年2月15日までの青森市の降雪量(累計値)を見ると、今冬は488センチであり、昨冬の517センチより少ないが、必ずしも大差はない(図1)。これは、市民の間で「今冬の雪は昨冬よりも随分少なくて楽だ」との声が多いことからすると、やや意外かもしれない。

 理由は「降雪量」は天から降った雪の量で、積雪の深さを表す指標ではない点にある。気象庁が別途公表する「最深積雪量」は、一日の中で記録した最大の積雪量を表す(図2)。それを見ると、昨冬は12月末の大雪で100センチを超えた後、1月末の大雪以降は1カ月以上にわたり100センチを上回り、ピークでは約150センチに達した。

 一方、今冬は12月から2月中旬までに多めの降雪が数回あったが、その後の晴天で雪解けしたため、100センチ以上の日は4日間のみで済んだ。つまり、降雪自体は相応の規模だったが、合間に雪解けが進んだことで積雪が緩和された。これが、今冬は雪の被害が小さいと感じる理由だろう。

 ところで、雪の被害を経済的費用として捉えた場合、その規模はどの程度だろうか。金額を把握しやすい除排雪費用に絞っても、昨冬は青森県全体で271億円に上る。しかし、実際にはそれ以外にも、交通・インフラ面の障害、農産物被害、建物等の物理的被害、人的被害、そして雪かきの労力などさまざまなコストがある。

 また、本来行いたかった活動を積雪で諦めた機会損失も考えられ、それら全ての費用を正確に見積もることは難しい。ただ、経済的費用はおそらく非線形的で、一定程度の積雪を超えると急激に増加すると考えられる。

 もっとも、雪には経済的便益があることも忘れてはならない。これはスキー客来訪による経済効果などに限られない。特に、農林水産業が重要な当地において、冬場の降雪が当地の豊富で良質な天然水の源であることの重要性は計り知れない。少なくとも、その便益が、雪の経済的費用と比べて小さいと断定することは難しいのではないか。その点を考えると、積雪が一定程度の範囲に止まる限りは、雪の費用と便益を共に偏りなく認識する必要があるように感じられる。

 
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