Free【猿楽の旅音日記】⑦組曲天台寺 弐ノ章~空蟬~

国の重要文化財に指定されている天台寺本堂の内部(楽曲のMVより)

日本古来の伝統美を誇り、地元では「御山(おやま)」と呼ばれ、愛されてきた八葉山天台寺。石灯籠の参道を進むと、2020年に改修を終えた美しい本堂が姿を見せる。合掌し、ここで音楽をつくらせていただくことを報告。一礼して中へ入る。

 組曲の弐(に)ノ章「空蟬(うつせみ)」は、本堂や周辺の景観から捉えたイメージと、想像を交えながら作った。本堂に入り、仏教の世界観を少し感じてみる。三千世界という言葉があるが、どのくらいの広さなんだろう、次元を超えているんだろうか…。

 そんなことを考えるうちに、意識は空想の世界へと飛ぶ。そこでは、僕は子どもだった。夏の暑い日、両親に連れられて天台寺に来ている。お経を読む住職の後ろに正座し、ぼーっとしていた。「本当はプールに行きたかったのに」「住職はなんで丸坊主なんだろう」なんて思いながら。

 うだるような暑さと呪文のようなお経で、意識はまたも別世界へ…。古めかしい服装の、鬼のような面をかぶった男たちがいて、聖観音様から何かを語りかけられている。そこにまた、見たこともないような生き物が現れる。ただ、不思議と怖さはない。これが三千世界の姿なのかもしれない。

 そして、意識は現在の自分に戻る。不安や恐れはいつだってあるものだし、この世ははかないものかもしれない。だが、自分の生きる道を見つけたなら、迷わず進もうではないか。

 曲名の空蟬とは、現世のこと。この世での修行を終え、いつの日か涅槃(ねはん)にたどり着きたい。そんな思いを抱きながら、幻影的なイメージの曲が出来上がった。(猿楽)

 タイトル曲などのミュージックビデオ(MV)は、猿楽さんのサイト「にのへの旅音」で順次公開する。

 
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