Free【猿楽の旅音日記】⑧組曲天台寺 参ノ章~寂庵~

名誉住職の故瀬戸内寂聴さんゆかりの「寂庵」(楽曲のMVより)
名誉住職の故瀬戸内寂聴さんゆかりの「寂庵」(楽曲のMVより)

天台寺の境内にある寂庵は、名誉住職の故瀬戸内寂聴さんゆかりの建物だ。一時は衰退していた寺の復興に大きく貢献され、二戸市の名誉市民でもある寂聴さん。7月に参道などに咲く約4千株ものアジサイは、住職就任当初に京都から株分けして増やしたものだ。

 参道や境内を歩くと、至る所で約240体の小さな豆地蔵たちが出迎えてくれる。かわいい帽子と前掛けは、市商工会女性部が手作りしており、春と秋に交換する際は浄法寺小の児童も手伝う。寺の保存会をはじめ地域の人たちは、この寺への誇りと感謝の思いを持ち続けているのだ。

 寂庵は京都にある事務所兼自宅として知られるが、寂聴さんは住職在任当時、天台寺の寂庵でも寝泊まりや執筆活動をしたという。なお、市浄法寺総合支所2階には瀬戸内寂聴記念館があり、天台寺の寂庵の書斎を再現。著作なども楽しめるようになっている。

 組曲の参ノ章「寂庵」は、さまざまな人生経験を経て仏門に入られた寂聴さんが境内をゆっくりと歩き回り、この場所を大切にされていた姿をイメージしながら作曲した。

 どこかチャーミングな方だった。恒例の青空説法では、集まった多くの人に寄り添うように、分かりやすい言葉で話しかけられた。私が以前に頂いた寂聴さんの色紙には、「すててこそ」と書かれている。残された言葉に思いを重ねながら、境内を巡ってみる。

 こうして出来上がった曲は、寂聴さんが寺で季節の花を見たり、掃除をしたりする時の動作のように、ゆったりしたテンポで進む。途中で軽やかな曲調に変わるところは、アジサイが咲き誇る様子を思い浮かべながら聞いていただきたい。(猿楽)

 ※タイトル曲などのミュージックビデオ(MV)は、猿楽さんのサイト「にのへの旅音」で順次公開する。

 
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