Free【貨物船座礁】「油臭い魚は売らない」 南浜の漁業者、苦渋の決断/八戸

定置網に入った魚の放流作業=17日午前4時15分ごろ、八戸市種差沖
定置網に入った魚の放流作業=17日午前4時15分ごろ、八戸市種差沖

八戸市南浜漁協所属の第21清和丸(16トン)が17日未明、種差沖の定置網に入ったサバなど約3トンを全量放流した。座礁した貨物船からの重油流出を踏まえ、漁は、油膜が解消されるまで中断することにしている。乗組員は重い網を引き上げ、しぶきを上げて身をよじる魚を次々と暗い海に戻した。「死活問題ではない。死ねということだ」。岸壁で漁師の重い言葉が響いた。

 苦渋の決断だった。しかし、船を運営する石井清一さん(58)は「油臭い魚を売るわけにはいかない。南浜のブランドは下げられないからだ」と気丈に語る。

 午前3時半に大久喜漁港をたち、約20分後に定置網の漁場に到達した。油膜は前日より薄まっている様子。石井さんは「潮が昨日(16日)とは逆になり風と共に北へ流れている」と話す。

 作業中は時折、油の臭いを確認した。魚自体に問題はなかったが、網の浮き玉からは油の臭いが漂った。

 船のクレーンを使うなどして網を引き揚げると、暗い海面に大ぶりのサバやエイなどが姿を見せた。空には獲物を狙うウミネコが舞っていた。

 午前4時すぎ、乗組員6人が黙々と魚を海に放った。「本来は売れるはずの魚が泳いで逃げていくのが見えただろう。漁師にとって一番辛いことだ」。そうつぶやくと、石井さんは表情を曇らせた。

 また、今後に備え、サンプルとしてサバやアジ、カレイやカンパチといった20匹ほどを確保したほか、くみ上げた海水をペットボトルに採取した。

 網やロープの被害も見過ごせない。重油が繊維に染み込むと劣化が早まってしまうためだ。ただ、「経験がないので除去する方法は分からない」という。

 秋以降は主力のサケ漁が控えるが、現段階で事態終息の道筋は見えていない。石井さんは警戒感を示す。「長引くのは、よろしくない」

 
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