Free【猿楽の旅音日記】⑮組曲 奥南部漆物語 四章~塗師~

滴生舎の工房で作業に取り組む塗師ら(楽曲のMVより)
滴生舎の工房で作業に取り組む塗師ら(楽曲のMVより)

二戸市地域おこし協力隊の猿楽さんは、市内の風景や文化を音楽で表現する「旅音プロジェクト」を進めている。音楽家の感性で捉えた二戸の印象を、曲のイメージと共に紹介する。

 漆器作りで、仕上げとなる「塗り」を担当するのが塗師(ぬし)だ。漆搔かきが木から採取した上質な漆を使い、木地師が作った器に丁寧に塗り込むことで、美しい漆器が完成する。二戸市浄法寺町の滴生舎(てきせいしゃ)の工房で、塗師が作業する姿を、曲作りのために見せていただいた。

 曲のイメージをつかむとき、僕はあまり下調べをしない。訪れる場所の資料に軽く目を通す程度で、あとは現場での自分の感覚に委ねる。何も考えず、そこで感じたものを、感じたままに音にしていく。

 工房は漆器の販売スペースからもガラス張りで見えるようになっており、数人の塗師が作業に集中していた。木地に下地となる漆を塗り、研磨してまた塗り重ねるという作業を何度か繰り返すことで、美しく丈夫な漆器が出来上がる。手に触れた時に、浄法寺漆の独特の質感と、心地よさを感じさせてくれる。

 余談だが、僕も今年初めて漆器を購入した。ご飯と汁物のおわんを、色違いのセットで。遠く離れて暮らす高齢の両親にプレゼントすると、大変喜んでもらえた。

 幾重にも塗られた「浄法寺塗」の奥深さと、長い道を歩んできた両親の人生を重ねて思い浮かべてみる。使うほどにつやを増す、味わい深い漆器。良いモノと触れ合うと、心まで豊かに温かくなる気がする。

 組曲の四章は、丁寧かつ繊細な塗師の動きをイメージして作った。浄法寺漆の質感を感じられるような、やわらかなピアノ曲に仕上がった。奥南部漆物語で描かれる伝統文化の美を感じながら、聴いてほしい。(猿楽)

 ※毎月第2、第4火曜掲載。タイトル曲などのミュージックビデオ(MV)は、猿楽さんのサイト「にのへの旅音」で順次公開する。

 
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