Free(6)「上方修正」の要因 佐藤雅裕・青森財務事務所長

2022年青森県内の販売額および新車登録届け出台数前年比の推移
2022年青森県内の販売額および新車登録届け出台数前年比の推移

先日、弘前大学で青森県の経済と金融について講義をする機会をいただいた。非常に熱心に聞いていただき、講義終了後にはさまざまな感想や質問が寄せられたが、その中で印象に残る質問があった。

 「内閣府が発表する月例経済報告(10月25日発表)について、『景気は緩やかに持ち直している』とありますが、さまざまなものが値上がりしているし、物価は上がっても賃金は変わらないなど、私自身はあまり景気が良くなっているという実感がありません。『緩やかに持ち直す』とは具体的にどのようなことなのでしょうか」

 確かにこの質問は学生の正直な実感だと思う。実際、青森市の消費者物価指数(10月、生鮮食品を除く)は104・0と前年同月から3・6%上昇しており、かつ全国の103・4より高い水準である。また賃金については、10月に最低賃金の改定があったものの、全国的にみれば依然低い水準である。

 このような状況の中、青森財務事務所では11月1日に県内経済情勢報告を発表し、個人消費について「一部に弱さがみられるものの、緩やかに持ち直している」として前回判断を上方修正した。

 このような判断となったのはなぜか。個人消費の分析は、供給サイド(販売者側)からみた消費関連統計を主に利用しており、販売額が中心となる。

 例えば、今回好調であったドラッグストアの販売額(6~8月)は前年同期比6・2%増であったほか、コンビニエンスストアも増加し、半導体不足の影響が解消された乗用車販売(新車登録届出台数)も9月は26・3%増と大幅に伸びている。百貨店・スーパーの販売額は前年並みだった。

 もちろん、販売額は物価上昇により一部底上げされている点も考慮しなければならないのだが、景況判断には消費者行動の変化にも着目する必要がある。

 それでは、実際の消費行動はどうだったのか。

 企業からのヒアリングでは、新型コロナウイルスによる行動制限がない中で、消費行動の変化が聞こえてきている。例えば、「外出機会の増加により衣料品や身の回り品が持ち直している」「イベントが増加したことで来店客数が増加している」「プレミアム付き商品券の影響で購買意欲は上がっている」「ねぶた祭の再開などにより、宿泊者数が増加している」といった声が多く、明るい兆しも確認できた。

 以上のとおり、個人消費については物価上昇の局面ではあるが、販売額のみならず、消費行動も持ち直していることから、前回判断を上方修正した。

 円安、ウクライナ情勢などの不透明な要素や、物価上昇による消費マインドの低下、コロナ感染の「第8波」などが引き続き懸念されるが、昨年、一昨年の行動制限による景気の底は脱し、徐々に青森県民の消費行動に変化がみられているのも事実である。

 10月28日には物価高騰・賃上げへの取り組みなどを柱とする政府の総合経済対策が閣議決定され、国会で議論されている。これらの施策が実行に移され、青森県民の消費行動に好影響を及ぼすことを期待したい。

 
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