Free笑いは心をリセットする 野村万作・萬斎狂言八戸特別公演に寄せて/関橋英作

野村万作さん(上)と萬斎さん
野村万作さん(上)と萬斎さん

狂言の笑いは、心をリセットさせてくれる人間の最高の装置です。

 狂言は、室町時代から続く伝統芸能。実はお笑いのルーツでした。物まね、形態模写、曲芸、手品などで楽しませていた散楽が、650年ほど前に能と並んで、狂言として体系化したもの。ですから、初めて見る方でも、多少言葉が分からなくても、笑える、楽しめる。

 登場人物の多くは、歴史上の有名人ではなく、名もない普通の人。というより、どこか抜けているキャラクターです。酒癖が悪い使用人、物覚えの悪い大名、強い女房に頭の上がらない亭主などなど。社会の様相がガラリと変わった現代にも、いそうな人ばかりです。

 でも違うのは、ダメな人間として扱われていないこと。もちろん、怒られたりはしますが、見捨てられたりはしない。「ごめんなさい」と言って逃げる相手を「逃がさんぞ」と言いながら追いかけて幕切れ。徹底的に追いつめないので、また元通りに仲良くしているだろうなと想像させる仕掛けです。

 これが狂言の本質。全ての人を受け入れる、許すという「やさしいまなざし」が根底に流れているのです。それがいつの間にか日本人の心から薄れていき、行き過ぎた個人主義によって、弱者や欠落者から目を背けるようになってしまった。狂言は、こうした他者との関係性の希薄化を気づかせてくれる。私は、いまの時代に必要な芸能だと思っています。

 また、演技をすることにおいて、世界で最も制約の多いパフォーマンス。何をするにも「型」を守らなければならない。それなのに、お笑い。不思議なことに、観ていて型の堅苦しさは微塵(みじん)もありません。それがかえっておかしみを増幅させているのです。

 この奇天烈(きてれつ)な感情劇、狂言。遠慮なく、心の底から笑ってください。笑いは心をリセットする人間のもっている最高の装置なのですから。

 今回の公演の見どころは、90歳にしてなお芸を究め続ける人間国宝野村万作さんの軽妙なおかしみ。そして、狂言の可能性をさまざまな分野に広げている野村萬斎さんの身体性のおもしろさ。万作さん演じる「舟渡婿」、萬斎さん演じる「千鳥」は、どちらも酒にまつわるお話。失態をごまかそうとする舅、何とか酒を手に入れようとしてあれこれ策を弄(ろう)する太郎冠者(かじゃ)のおかしみと機転。酒は人を迷わすけれど、酒は人を喜ばす。結末をお楽しみに。

 関橋英作(せきはし・えいさく)=クリエイティブコンサルタント、万作の会主催深田博治師指導・世田谷狂言教室メンバー、八戸市出身、東京都在住

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 「野村万作・萬斎狂言八戸特別公演」は5月12日、八戸市公会堂で。午後5時半開場、同6時半開演。チケットはSS席1万円、S席9千円、A席7千円で、11日は午後4時までデーリー東北チケットセンター、当日の12日は午後4時半から市公会堂で販売する。

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